(これは差別だろう) 韓国・被爆2世「なぜ支援受けられないのか」 遺伝影響認められず、自国でも対象

 (これは差別だろう)

韓国・被爆2世「なぜ支援受けられないのか」 遺伝影響認められず、自国でも対象外

2021年8月6日 18時45分
 広島、長崎への原爆投下から76年。日本に次いで被爆者の多い韓国でも、親の被爆が原因とみられる病気や健康の異常に苦しむ被爆2世が少なくない。支援を訴えているが、日本や韓国政府が医療費などを支給する対象には含まれず、被爆2世は取り残されたままだ。(韓国・陜川ハプチョンで、中村彰宏)

韓国の被爆者 韓国原爆被害者協会によると、広島と長崎で被爆した朝鮮半島出身者は7万人で、このうち4万人が死亡。2万3000人が帰国した。韓国内に生存する被爆者は約2000人で、うち480人が陜川で暮らしている。

◆「韓国のヒロシマ」で苦しむ

 「こんなに苦しんでいるのに、なぜ被爆の後遺症だと認めてくれないのか」
 こう訴える韓正淳ハンジョンスンさん(62)は、韓国南部・慶尚南道キョンサンナムドの陜川で生まれた。日本の植民地時代、陜川から釜山を経由して日本に向かう交通が整備され、徴用や仕事を求める多くの人が海を渡った。韓国人被爆者の多くが陜川出身。ほとんどが広島の軍需工場で働き、陜川は「韓国のヒロシマ」と呼ばれる。
 韓さんの母も一家で陜川から広島に移住し、被爆した。当時、母は妊娠中で韓国に戻って出産したが、子どもは1歳で死亡。韓さんには、他に終戦後に生まれた姉3人、兄と弟が1人ずついる。全員が心臓などに疾患を抱え、韓さん自身も無血性壊死えし症で両股関節に人工関節を入れている。
支援の必要性を訴える被爆2世の韓正淳さん=陜川で(中村彰宏撮影)

支援の必要性を訴える被爆2世の韓正淳さん=陜川で(中村彰宏撮影)

 被爆2世を巡る状況は厳しい。日本政府は疾患の遺伝的影響を認めておらず、被爆者援護法とは別に健康診断を実施しているが、日本国内在住者に限られる。韓国で2016年に成立した被爆者を支援する特別法も、2世は対象から外れた。抱える病気や症状はさまざまで、被爆との因果関係を証明することが困難との理由からだ。「何度も国会に行って支援を訴え、デモもやったが、聞き入れてもらえなかった」と韓さんは語る。

◆差別、偏見恐れ…

 韓国では、被爆2世の存在は長く知られてこなかった。2002年に金亨律キムヒョンヌルさんが韓国で初めて被爆二世だと公表。先天性の免疫グロブリン欠乏症で肺を患い、体重は40キロに満たなかった。「原爆と遺伝の関連を証明することは、個人ではなく国と社会が解決すべき課題だ」。金さんは支援の必要性を訴え続けたが、05年に34歳の若さで亡くなった。韓さんらは遺志を受け継ぎ、活動を続けている。
2002年、亡くなる3年前の金亨律さん=韓国原爆二世患友会提供

2002年、亡くなる3年前の金亨律さん=韓国原爆二世患友会提供

 被爆者の子らでつくる韓国原爆被害者子孫会の会員は現在2700人。差別や偏見を恐れ、親が被爆者であることをを隠して暮らす場合も多く、実際には1万人近いと推定される。韓さんの母親も、韓さんが被爆2世であることを明らかにすることに反対したという。
 慶尚南道が13年に実施した調査では、被爆者の子の13.9%が先天性の奇形や遺伝性疾患を患っていた。障害者の登録率は9.1%と全国(5%)の2倍近い。2歳の時に広島で被爆した韓国原爆被害者協会陜川支部の沈鎮泰支部長は「われわれ一世は、もう先は長くない。いずれいなくなるが、2世、3世はまだ若く、支援がより必要になる」と指摘する。

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